システム式多目的反射望遠鏡
(Multi-Purpose Reflector)
反射望遠鏡の接眼部は屈折望遠鏡と比較して自由度に制限がありそうです。
例えばアイピースや一眼レフ (右図 A および B) でピントが出ても,外付けレデューサー
(Celestron/f6.3など) を付けて撮影 (右図 C) となると筒外部分が長過ぎてうまく行かないことがあります
(一般に F 値の小さい反射望遠鏡に敢えて外付けレデューサーをつける必要があるか?という問題はありそうですが,それでもどうしても大型の星雲
(例えば M31 など) をゆとりを持って撮りたい場合などには敢えて試みたくなるのではないでしょうか
??)。
レデューサーだけでなく,観望の目的で EMS (右図 D) や双眼装置などを付けたい場合も筒外光路の関係で断念ということになりそうです。
つまり屈折望遠鏡では何事もなく可能なことでも反射望遠鏡では断念せざるを得ないことが多いです。
そこで筒外光路が短い場合でも長い場合でもそれぞれピントが出る反射望遠鏡
(Φ130 mm, F 5.6) を作って見ましたのでご報告します。
まず右写真の A〜D の各場合について筒外の消費光路長 (M) を測って見ると;
A<B<C≒D の順に長くなり,A と C≒D の差は約 14 cm 程度でした。
この場合,14 cm という長さを吸収できるような長い筒外光路を設定して仕舞うと斜鏡短径は 「大は小を兼ねる」 の原理で、長く設定する必要があり,余り好ましくないと考えられます。
実際,反射望遠鏡の口径を R,焦点距離を FL,筒外光路長を M とすると,適切な斜鏡短径の概略値
(d) は;
d=R×M/FL ----------------------- 1)
と考えて差し支えないと思われます。すると、R=130 mm,FL=728 mm (F5.6)
の場合には,M の値の差 140 mm は d の値の差としては約 22 mm に対応します。
この斜鏡短径の差は一寸無視できない大きさと思われます。
これを解決するには,主鏡と斜鏡との距離を変化させるだけでなく,それに応じて斜鏡自体も変更できる構造にする必要がありそうです。
鏡筒を仮組して,実際に合焦する位置での主鏡と斜鏡との距離 L (= FL−M)
を計測し、これに見合う斜鏡径 (d) を式 1) から求めたところ、
A (アイピース使用時) では,L = 約 630 mm; d=約 25 mm
D (EMS使用時)では,L = 約 490 mm; d=約48 mm
となり,手持ちの斜鏡でこれに近い寸法のものとして 24 mm、34 mm および 42
mm の斜鏡を用いることにしました。
ボイド管を加工して作成した円筒 (下図参照) に短径の異なる大小の斜鏡を固定し,そのまま鏡筒
(下の設計図参照) に挿入します。この円筒は接眼部の金属金具に食い込むようになっており,このため挿入後はびくとも動かないようになっています。
光軸調整は一度行っておくと,あとは挿入のたびに調整し直す必要はほとんど無いようです
(写真撮影の場合はチェックした方が良いと思われますが・・・)。
全体の構造は下図の通りです:
a:主鏡支持筒をスライドさせても接眼部支持筒内側の植毛紙面とは接触しないようになっています。
b:スパイダーの固定ナットを斜鏡支持筒の壁面内に納め,外に出張らないようになっています。
この望遠鏡では斜鏡から主鏡までの距離 (L) は,接眼部の消費光路長に応じて変化させます;アイピース使用時の
L は最も長いため斜鏡は小さいもの (この場合 d' = 24 mm) を使用し,EMS
使用時またはレデューサー+一眼レフ使用時には L は短くなるため大きな斜鏡
(この場合 d' = 42 mm) を使用します。
以上のように斜鏡を取り替えた場合に気になるのは遮蔽率です;
理論値よりも大きな斜鏡を使用した際は主鏡の中央部だけが遮蔽され,主鏡面積に対する遮蔽面積の比率(P)は;
P = 100×(d'/R) 2 ---------------------------------- 2)
となります。
また理論値よりも小さな斜鏡を使用した際は,主鏡の中央部の遮蔽に加え周辺部も遮蔽され,その周辺遮蔽率は面積比
(Q) として−
Q = 100×[ 1−(F×d') 2 /(FL−L) 2 -------------------- 3)
ちょっと計算するのは大変ですが,エクセルに 2) および 3) の式をセットすれば瞬間的に答えが出ます。
この望遠鏡について式 2) および式 3) による計算値を表にすると−;
|
L
(mm) |
至適斜鏡
d (mm) |
実際使用する
斜鏡 d (mm) |
'中央遮蔽率
P (%) |
周辺遮蔽率
Q (%) |
主鏡利用率
100−P―Q (%) |
有効主鏡径
(mm) |
A |
約 630 |
約 18 |
24 |
約 3 |
0 |
97 |
128 |
34 |
約 7 |
0 |
93 |
125 |
42 |
約 10 |
0 |
90 |
123 |
B |
約 580 |
約 26 |
24 |
約 3 |
18 |
79 |
116 |
34 |
約 7 |
0 |
93 |
125 |
42 |
約 10 |
0 |
90 |
123 |
C |
約 500 |
約 41 |
34 |
約 7 |
30 |
63 |
103 |
42 |
約 10 |
0 |
90 |
123 |
D |
約 490 |
約 43 |
32 |
約 7 |
36 |
57 |
98 |
42 |
約 10 |
2 |
87 |
121 |
A:アイピース使用時:d'=24 mmが適切
B:一眼レフ使用時:d'=34 mmが適切
C:レデューサー+一眼レフ使用時:d'=42 mmが適切
D:EMS使用時:d'=42 mmが適切
要するに接眼部を A,B,C または D のいずれにするかによって,それぞれ適切な斜鏡
(24,34 または 42 mm のいずれか) を選択することにより光量のロスを最小に抑えることが可能と思われます。
ただし,上記の利用率が 87 ないし 90% 以上であれば OK ということであれば,42 mm の斜鏡だけで間に合わせることも一応可能と考えられますが,やはり斜鏡は必要以上に大きくするべきでないと思われます。
観望時の実際
下の写真 (左) は通常のアイピースを装着した場合 (A) で,主鏡支持筒を大きく引き伸ばしています。
写真 (右) は EMS を装着し,楽な姿勢で観望が可能な状態 (D) です (主鏡支持筒は目盛にしたがって押し込んだ状態です)。いずれの場合も接眼部と反対側に装着したファインダーのおかげでバランスがよくとれ,クランプ解除でフリーストップの状態にできます。EMS 装着時 (D) では,望遠鏡がどの方向に向いても自分の目の位置にアイピースを動かせるので,例えば椅子に座ったままでも長時間の観望が楽しめます。
写真撮影時の実際
下の写真左はカメラを直接装着したところ(B),右はレデューサー(Celestron / f6.3)を介してカメラを装着した状態(C)です。いずれも主鏡支持筒に貼り付けた目盛にしたがって引き出し位置を決定できます。
天体撮影の実際
2010年9月25日――レデューサーをつけた状態で撮影してみました;アンドロメダを狙いましたが,生憎く月齢17日の明るい月が間近にあってダメでした。やむを得ずすばる星団と月の撮影になって仕舞いました。
摘要
主鏡径: 130 mm
焦点距離: 780 mm (F 5.6);レデューサー(Celestron / f6.3)使用時は約460mm(F3.5)相当
斜鏡: 短径24,34および42 mm(交換式)
接眼部: ボーグ製ヘリコイド(OASIS M57 DX)但しEMS使用時は内臓ヘリコイドが使用できるため不使用
レデューサー(Celestron / f6.3),2インチアイピース使用可能
斜鏡/主鏡間距離: 480 mmから650 mmまでスライド可能
ファインダー(自作): 口径60 mm,焦点距離300 mm(天頂ミラー付き),2軸微動台座(自作)
ファインダーはカウンターバランスの役割も果たすため,赤道儀上でフリーストップ可能
一眼レフの写野について
EOS X2の場合,横方向=約1.8度,レデューサー(Celestron / f6.3)+EOS
X2の場合,横方向=約3.0度
材料: 本体および鏡筒バンドはボイド管製(一部黒ボール紙使用;自作)
重量: 約5kg(ファインダー,鏡筒バンド,アリガタ付き台座(すべて自作)を含む)
長さ: 最小(収納時)68 cm,最大 84 cm
余談: ボイド管の直径を小さく(または大きく)する作業については,「F可変型屈折望遠鏡」の製作記事中の
「鏡筒の製作」の項をご参照下さい。
レデューサーなしの状態での撮影と比較し,レデューサー使用時では写野は約1.7倍(合成焦点距離=約460 mm;F3.5相当)に広がります(下図参照)。これから秋に向けてアンドロメダ星雲が画面一杯に収まると考えられます。勿論,レデューサー+アイピースという組み合わせも自由です。