主鏡移動型カメラ用反射望遠鏡の製作
目的
望遠鏡による天体撮影の際に意外に見逃し易い点として(私だけかも知れませんが),接眼部とカメラとの接合部分の正確さ(頑丈さ)が無視できないのではないでしょうか? 光軸が如何に正確でもこの部分に不注意な歪みが生じると星は円く写らないことが無きにしも非ずです。
一眼レフの場合にはさほど問題でないとも思われますが,特に重い冷却CCDになると接眼部になんらかの工夫を加えたくなります;特に自動フィルターターレット内臓式のSBIG-ST2K(1.4Kg)では深刻な問題です。
そこで接眼部+カメラ(又は冷却CCD)の接点を固定した望遠鏡を作って見たいという欲求で,新規の反射鏡筒を作成してみました。要するに,撮影用の自作機材として
@信頼性が高く,かつ A小型軽量で赤道儀上でフリーストップが可能など扱い易さを追求し,特に
B出勤率の向上を期待しました。
特徴
1) 撮影用として割り切るとすれば,ピント調節に必要な光路長の調節・可動範囲は高々5〜10ミリとなり,これなら接眼部を固定しても主鏡セルを微動させることで対応できそうです。 2)冷却CCDなど重いカメラを正確・容易に装着できます。 3) 接眼部のピント調節用摺動装置(直進ヘリコイドなど)が不要のため,@ 安価・軽量となるだけでなく,A 筒外光路が短縮し,斜鏡も小型化できるので,集光率の上昇が期待できます。
設計
1) 最適な斜鏡径の算出 接眼部は手持ちのカメラ器材(EOS, Kiss X2またはターレット付き冷却CCD;ST
2000 XM)を接続できるための最低限度としましたので,筒外光路長は170mmで済みます。
主鏡にはφ100mm,FL=600mmを選んだので,斜鏡と主鏡の距離は430mmです。
この条件で計算すると斜鏡短径は28.3mmとなりました(実際には30mmを使用)。
製作
1)主鏡セル部分(内側は遮光紙)
φ100mmボイド管を軸とし,直径を拡大した他のボイド管を周囲に硬く巻き付けました。光軸調整は,スプリング付き押し引きネジ3本で行います。
セルの移動は,ピッチ1mmのネジの回転で行います。実際に鏡筒内部に装着すると,信じがたいほど軽くスムースに微動するので自分でも驚いています!
2)鏡筒部分
(内側は遮光紙) φ125mmボイド管です(詳細省略)。
主鏡セルと接触する内面部分にはシリコンスプレーを吹き付けて,主鏡セル本体がスムースに動けるように,また隙間がないように気を配りました。
3)ピント目盛り
主鏡セル本体は見えない構造なので,鏡筒に四角の孔を切り抜き,内部のセルの位置が確認できるようにしました;
またその部分に目盛り盤(副尺)を付けたので,それで凡その焦点合わせができます。
また,焦点移動させる微動ノブ内側の円板にも目盛りを付けたので,再現性のある微調整(1/5回転で0.2mm移動)も可能となりました。
ピント調節は,接眼部から離れた鏡筒後部のピントノブで行いますが,冷却CCDや一眼レフの場合パソコンソフト上でピント調節を行うので,これは却って使い勝手が良いようです;
ちなみに眼視観望の場合には,接眼部に直進ヘリコイドを付けられますので,通常の反射望遠鏡と同じ方法でピント調節が可能です。
4)カメラ接続部
冷却CCD(ST 2000 XM+オートターレット;1.4 kg)を確実に保持するためにアルミ板(左右2枚)でCCDを挟みネジ止めできるようにしました。それにしてもこのCCDは重いです。
5)台座
カメラ位置は鏡筒の真下または真上ではなく左側ですので,バランスは自然左に寄ります;
しかも重い冷却CCDと眼視または一眼レフの場合とではそのずれは無視しにくいほど大きいです。 そこで,赤道儀上でクランプフリーにしても鏡筒全体がぐらりと回転して仕舞うのを防ぐ目的で,右図および下の写真のようにアリガタを斜めに取り付けました。
冷却CCD装着時には重心1,眼視または一眼レフ装着時には重心2のあたりに赤道儀のアリミゾが来るようにしますと,どちらもフリーストップに近い状態が得られます。
これは接眼部の状態で重心が左右前後に移動するような鏡筒(台座)の場合には,広く応用可能と思われます。
ただし,赤道儀の駆動形式によっては不適当の場合があり得ます。
天候が回復し,また撮影できたら追加予定です(2010年3月1日)
なお,この望遠鏡には2軸微動式のファインダー台座を取り付けました;これで冷却CCD使用時の導入や構図の調節が容易になりました。興味のある方は,「2軸微動式ファインダー台座の製作」の項もご覧下さい。
つまり,この構造では赤道儀の極軸と望遠鏡の主光軸とが一致しませんので,例えば望遠鏡の鏡筒を予め
「垂直」 または 「西向き」 などのようにして,赤道儀のアラインメントを行う必要のある自動導入システムの場合には応用は困難と思われます。
その場合にはカメラを鏡筒の上側または下側に固定する従来の方法にしたがって,別の構造を工夫する必要がありそうです。
私の場合には,赤道儀の極軸を正確に合わせることのみを前提とした Pyxis を使用しているので,アリガタを斜めにしたこの構造でも導入精度が変わる心配は不要のようです。
感想
1) 重量はCCDをつけた状態でも6.4Kgですので,そのままの状態で赤道儀に搭載可能です。
2) 光軸は一度正確に合わせれば,少なくとも当分は支障がないようです。
3) 接眼部をどのようにしてもクランプフリーが得られるのは精神的に快いです。
4) この構造ではどうしても鏡筒の長さは若干長めになります。また,構造がやや複雑になるため,口径は15cm程度までが限界かなと思われます。
概要
主鏡:φ100mm,FL600mm(アスキーのセット品),3本のスプリング付きネジで光軸調整
斜鏡:φ30mm,3本スパイダー
鏡筒:φ125mm ボイド管をそのまま使用
主鏡セル:φ100mmおよび125mmボイド管の直径を伸縮して作成
鏡筒バンド:φ150mmボイド管の直径を縮小したものを2重にしてから適宜切断
台座:木製 アリガタ:木製(自作);CCD装着時に赤道儀上でフリーストップとなるように位置を調整
重量:約5.0Kg;ファインダー(自作)を含む。
カメラ:冷却CCD(約1.4Kg)または一眼レフ
眼視:眼視の場合は,直進ヘリコイド(Borg)+2インチまたは31.7mmアイピースを使用
天体撮影
慎重に調整したので,何回使用しても光軸の不安は実際上感じません。 焦点合わせでは,ピントノブの目盛りが36刻みになっているので,1目盛りが0.027mmのピッチになります。
従って根気さえあれば,かなり精度良くピント調整が可能です。ただし,頑丈に作ったつもりでも主鏡は重いので,低空で合焦させてから天頂近くに仰角を上げると,ややピントがずれる感じがあります。わずかに主鏡を筒先側に近付ける必要がある場合もあります。視野へ天体を導入するごとにピントチェックを行う習慣のある人には苦にならない程度ですが・・・
1]一眼レフによる撮影
下左:先ず木星を撮影。中心部分の強拡大画像です。原画像では衛星が四個写っています。
下右: 次に,ペガサス座の Scheat を撮影.。中心付近のトリミング。周辺の微光星(9.1等星)は MegaStar で確認済み。
2] 冷却CCDによる撮影
M 44
100225; 21時頃 (月明+曇り空)
ST2K, +5 ℃,20 sec 1 枚
モノクロ,piningなし
100225; 22時頃 (月明+曇り空)
ST2K,-10℃,60 sec×20 枚
LRGB合成,2×2 pining
急に結露が生じるようになり,脱水処理に手間取っているうちに,春風の季節になって仕舞いました。悪天候
(降水確率10%) に加え,月が明るい夜で,肉眼で見える星と言えば火星と一等星がやっと,という感じ。
言い訳が長くなりましたが,とにかく冷却CCDの結露チェックを兼ねて撮影強行しました。案の定,写りは良くないですが,次はいつ撮れるか判らないので,敢えて掲載します。
実はM65とM66を同視野で撮ったのは初めてで,そのぶん気をよくしています。,