3群レンズ望遠鏡の設計と製作 (2011年8月30日)
記号の説明
  A:左端の第1レンズの焦点距離(口径=Φ)        D:第1と第2レンズの間隔
  B:中央の第2レンズの焦点距離                E:第2と第3レンズの間隔
  C:右端の第3レンズの焦点距離                F:第3レンズから合成焦点までの距離

計算表(エクセル)
実用性の程度は不明ですが,手持ちのレンズ3個を使って思いも寄らないヘンな望遠鏡を作ってみました。実際3種類のレンズを組み合わせるとそのバリエーションは大きく広がるようです
2群レンズの場合と違って,計算は少し複雑ですが,対物側から数えて最初の2枚のレンズ(下図では A および B)の光学中点に仮想レンズ(P)を想定すれば,P と C からなる2群レンズの公式 (「F可変型屈折望遠鏡」を参照下さい) を用いて,3群のレンズからなる屈折望遠鏡に適合する式を算出できます;途中の計算過程は面倒なので,結果のみを以下に示します。


上の表(エクセル)の青色欄には数値(mm)を,また赤色欄と灰色欄には以下の数式を入力します。

  F= (Z−Y)×C/(Z−Y+C)                X=(A−D)×D/(A−D+B)
  合成f=Z×C/(Z+C−Y)                  Y=E+D−X
  合成F=Φ/合成f                       Z=A×B/(A−D+B)

上記の数式の導き方は面倒なので省略します;お暇な方は2群レンズ系の数式から導いて確認して下さい。一度このエクセル表を作成すると結構楽しめ(?)ます。

因みに, @ X はレンズ A と B の光学中点 (仮想レンズ: P) とレンズ A との間の距離
      A Y は仮想レンズとレンズ C との間の距離
      B Z は仮想レンズの焦点距離
ですが,これら X 〜 Z の値は望遠鏡を設計する際は参考にする必要はありません (ただしエクセル計算表を作成する際に不可欠です)。
* 上のようにしてエクセル表を作成し,ΦおよびA〜Eの各値をミリ単位で入力すると,赤色および灰色の欄の各数値が自動的に表示されます。
* Fの値はバックフォーカスに相当しますので,この値は充分余裕がないとピントが出ないことになります。その場合はDまたはEの値を可能の範囲で変化(縮小)させてF値を調整する必要があります。
* もし2群レンズ系の場合には,B=∞(実際には100万とかの充分大きな数値)およびD=0と入力すればそのまま同じ表が使用できます。
* 算出値の精度:表に示された数値通りに作成すれば,誤差は製作精度によりますが,ほぼ数ミリ以内です(勿論各レンズの焦点距離がスペック通りの場合ですが)
* この表を使って実際作成した例を以下に掲げます。

A=Borg 101ED,B=Borg 45ED,C=Kenko AC No.2 ( クローズアップレンズ; f=500mm) 使用の作例
Borg 101 ED が F 2.8 となりました。ただし撮影専用で天頂ミラーでの観望はできません。
観望目的の場合は,後部レンズのいずれかを外すとバックフォーカスが長くなり,観望・撮影両用となります。
下の写真は Kenko AC No. 2 を外した例で,その際の F 値は 3.5 となります。
Scope Town Φ80mm(f=1200mm:F15)レンズ2組+Celestron製レデューサー(f=220mm)の作例
Scope Town 製のこのレンズは透過率 99.9% と言われ,アクロマートですがとても良いレンズと思われます。このレンズを間隔 50 mm で 2 組収納した対物レンズハウスを自作し,ボーグの金属鏡筒に被せています。
F 15 のスコープタウンレンズが F 2.9 望遠鏡に早代わりしました。 31.7 mm なら天頂ミラー可能です。
スセレストロンのレデューサーを外し,更に鏡筒を 175 mm 延長すると F 7.7 となります。この場合は 2インチ天頂ミラーでの観望もできます。
Borg 101 ED: F 2.8 (3群レンズ系)
Kenko AC No.2
Borg 45 ED
Borg 101 ED: F 3.5(2群レンズ系)
Borg 45 ED
右の図は3群レンズ系で,例えば;
D を 50 mm に固定し,E を変化させた時に
他のパラメーター(F=第3レンズのバックフォーカスに相当),合成 f 値および D+E+F 値(鏡筒の長さの指標)がそれぞれどのように変化するかを示したものです。

これによると,E を長くすると;
@ F(バックフォーカス)は短くなり,
A 合成 f 値は大きくなり,
B 鏡筒は長くなる,
ことが解ります(当然のことですが)。

F はある値以下に短くすることはできませんから,その最低値以上となるようにEの長さを短縮する必要があります。

Scope Town(F15)+Kenko AC No.2 (f=500mm)+Celestron製レデューサー(f=220mm)の作例
この組み合わせではかなり長大な鏡筒となりますが,スペック上は F 4.3 となります。眼視の際は後部のレンズをどれか1個外せば2インチ天頂ミラーもOKとなります。

ScopeTown Φ80レンズ1組 (3群レンズ系)
F 4.3 ( f 348 mm)
注1: 第 3 レンズとして Celestron 製レデューサー ( f = 220mm) を使用するとバックフォーカスに苦心します;その場合,ケンコーのクローズアップレンズとして人気のある No. 3 (f = 330 mm) の方がバックフォーカスが少し長くなるので具合が良いと思われす。
注2: 接眼部付近にレデューサーを装着した場合ピントが合わせ難くなり易いです;特にレデューサーより前方(対物側)にフォーカッサーがあるとピント調節の際に焦点距離も同時に変化します。その際,レデューサーより後方にもヘリコイドをつけておけばかなり気持ちよくピント合わせができるように感じます  (ただしこの場合はバックフォーカスをその分長くできるように設計する必要がありますが)。

性能(特に周辺減光やコマ収差について)
スコープタウンのレンズを用いた F 2.9 の鏡筒でテストして見ました; 下の写真のように周辺減光がかなり露骨に出ますが,四隅とも星の流れは目立たず,いわゆるコマ収差という点では許容範囲かと思われます。
点線部分を強引に引き伸ばす (トリミング) と下左の写真のようになります; 色収差は殆ど感じられないように思われます。下右は M27 を強引に拡大(トリミング)したものです。
撮影データは @ hχ: 露出 30 秒 (1回のみ), A M 27: 露出 30 秒×4 回 (合計 120 秒) で,いずれも極端な露出不足ですが,天候が悪くこれ以上の機会に恵まれませんでした (GPD 赤道儀を用い,Pyxis でノータッチ追尾)。いずれもカメラはEOS X5 (改造;Idas LPS P2 内蔵)

注1: 以上のテスト撮影で,@ 四隅の星像にあまり大きな崩れはないと思われたので,A 周辺減光を少しでも減らす目的で,急遽フラット画像を撮影して減算処理したところ,まだ不完全ですが幾分周辺減光が改善されたように見えます(下の写真)。ただしフラット画像の撮影にはもう少し時間と手間を掛ける必要がありそうです。
ScopeTown Φ80 レンズ2組 (3群レンズ系)
F 2.9 ( f 230 mm )

ScopeTown Φ80レンズ2組(2群レンズ系)
F 7.7 ( f 613 mm )

注2; フラット画像の作成 → 昼間曇っているのを幸いとして,部屋の中から曇り空に向けて適当にシャッターを切りました; 対物レンズの前には (トレーシングペーパーを買いに行くのが面倒なので) 薄目の A4 用紙を手で持ってシャッターを切りました。この方法なら撮影の翌日でも曇ってさえいれば3分で OK です。

要約
2群以上のレンズを用いるのはすでに満足できる明るい望遠鏡を所持している場合には不要と思われますが,自作にこだわる場合には面白いかも,です。周辺画像の歪みさえ許容範囲であれば,周辺減光の方は簡単なフラット画像を用いて減算処理すればかなり改善可能と考えられます(2011年8月31日記)。
望遠鏡を新しく購入するのは結構大変ですが,それに比べれば比較的安価なアクロマートレンズを入手して,世界に一つしかない鏡筒を自作するのも楽しいのでは,と思われます。


ScopeTown F 2.9 ( f 230 mm )
EOS X5(改) 30秒(ISO 800)×1回
トリミングなしフラット補正