ベランダに赤道儀を設置する場合、北極星が見えない場合が多く、ドリフト法に頼ることになります。しかしその場合でもできる限り赤道儀の方向を極軸に近く設定しておいた方が、あとのドリフト法に要する時間と手間が省けると考えられます; ひょっとするとそのままでも単焦点のカメラレンズならかなりの長時間撮影がノータッチで可能となるかもしれません。

そこでスタードリフト法による本格的な極軸合わせの前に赤道儀をうまく設置する方法を考えてみたいと思います。

1]赤道儀台座をほぼ水平にする

指針のついたレベラーは恰好は良いですが、なかには不正確なものもあり、安価な気泡式のものの方が良いと思われます;いずれにせよ赤道儀本体を載せる前にやっておくのが良いでしょう。

赤道儀の極軸合わせについて
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[2]赤道儀を真北に向ける

この場合方向磁石はほとんど役に立ちません;地方の磁力変異を考慮してもこれは局所的にはあまり信用できないように思われますし、まして近くに鉄製の何等かの器具などがあればかなり的外れになります。また市販の方向磁石の針の長さは数センチしかないので、正確に方位を決定するのはかなり困難と思われます。矢張り一番信用できるのは地方ごとの南中時の太陽です。正しい南中時の太陽による影を利用するのが賢明と思われます。

まず地域の緯度に合わせて出来るだけ正確に赤道儀の仰角を設定します。

次に右図のように、アルミ板をアリガタに出来るだけ垂直となるように固定します(理論的には重りをつけた糸がよいですが、実際には風で揺れるので実用的ではありません)。アリガタには予め中央に赤線などを引いておきます。

予め調べておいた南中時刻が近づいたら、垂直のアルミ板の影に注目して、三脚ごと向きを微調整しておき、南中時刻がきたらアルミ板の影がアリガタの中央線と一致するか、または平行となるように三脚の向きを微調整します。

注:赤道儀本体を三脚(またはピラー)に装着する前におよその水平出しをやっておく方が良いでしょう(普通のベランダは排水目的で若干傾斜していますので)。ただし、この水平出しは余り正確でなくても鏡筒を搭載して赤道儀全体が不安定にならないことが重要と思われます。

[3]精度の限界

このままの状態でなにもせずに、敢えて撮影してみました(カメラはEOS Kiss X5 です)。

下左:Olympus OM 55mm F1.2 :中央部トリミング)
適当な恒星を視野中心に入れて3分間撮影したものです。ご覧のようにこの程度のカメラレンズなら2〜3分程度の露出ではほとんど星の流れは見られないようでした(ただし、ピント合わせはいい加減なので全体として星像は膨らんでいます)。


下右: Nikon 70 - 200mm Zoom F2.8 (FL =70mmとして撮影:トリミングなし)
 
30秒露出で10分間隔で2枚撮影したものをそのままコンポジットしたものです。さすがにこの程度の焦点距離のレンズでは10分では派手に動いてしまいました。
これでは普通の望遠鏡による撮影は無理です; そこで当然ながら正確に極軸を合わせる必要があります。

[4]スタードリフト法

準備焦点距離の長い望遠鏡(例えばC8)に天頂ミラー暗視野照明付きのアイピース(例えばAstro Or 6mm)を装着します。(下の図は天頂ミラー使用時のもので、左右が入れ替っています)

操作1(赤道儀の水平方向の調整)

@ 南南東方向の明るい恒星(南中前)を視野中心に導入する。
A 赤道儀の電源(または赤経クランプ)を一旦OFFにすると、星は西に移動する。
B アイピースを回転してカーソルの向きを星の移動方向に一致させる。
C 電源ONの状態で数分間放置(追尾)すると星はカーソル中心から移動する。例えば進行方向よりも右側(北側)に移動する場合は、赤道儀の方位を東向きに微動させる。

 余談:C の段階で星の「ずれ」が大きい場合は赤道儀の方位調整ネジを思い切って1回転ほど回し、もし星のずれが逆になった場合は方位調整ネジを少しづつ戻していくという方法で全体の調整時間を短縮できる可能性があります。

操作2(赤道儀の上下方向の調整)

@ 方向の明るい恒星(高度45度付近)を視野中心に導入する。
A から B の操作は上と同じ。
C 例えば進行方向左側(南側)に移動する場合は、赤道儀の方向を上向きに微動させる。この場合もずれが大きい場合は高度をある程度大きく調整し、その後で微調整する方が効率的な場合がある。   なお、操作1と2はそれぞれ単独に長時間を費やすよりも交互に段階的に行う方が効率的な場合がある。

撮影の実際

上記の方法により可能な範囲での極軸合わせを行ったあとの天体望遠鏡による撮影結果です。ただし、何分にも光害の激しい市街地のベランダなので、露出時間は最大でも2,3分が限度のようです。また光害に強いと言われるモノクロタイプの冷却CCDに頼るのが無難と思われます。

上記の操作1および2ともに、約30分程度は星の左右へのずれがほとんどなくなったので、実際に天体望遠鏡を使って、冷却 CCD (ST 2000 XM) で撮影を試みました。赤道儀は GPD(Vixen)で、すべて Pyxis によるノータッチガイドです。

下左: M22
BORG 60 ED (f = ;350mm) ;-10℃,L::60 sec,×4, RGB:各60 sec×1(合計7 min)

下右: NGC 281
AstroPhysics (φ90mm; f=450mm) ;−5℃,LRGB合成(1回 30 sec 合計93 min);