[4]他の撮影法との比較

一眼レフカメラの代表的な使用方法は、言うまでもなく直接焦点法と拡大撮影法です。
先ず直接焦点法では、合成焦点距離に相当するのは望遠鏡の f 値そのものですので、先の Q値としては常に、Q=1.6 (EOSの場合) です。したがって、表1からも判る通り、「一眼レフによるコリメート法」ではこれよりも拡大率を大きくすることも小さくすることも可能です。
つまり、もし f18mmの広角レンズと 36mmのアイピースを併用すれば、その比率(0.5)に相当するレデューサーを使用した直焦点撮影と同じ画角が得られます。ただし、極端な広角レンズの場合、一眼レフと言えども多少の「けられ」が生じる可能性があり、また直接焦点法と比較して、アイピースとカメラレンズという二つの余計な光学系を使用することによる問題点(?)にも目をつぶる必要があります。

一方、拡大撮影の場合を考えて見ると、コリメート撮影時の合成f値と拡大撮影時の合成f値との比率は、f(C)/d となります;ここで、dは拡大撮影時のアイピースとカメラのフォーカス面との距離で、最小値としてはおよそ124mm程度ではないでしょうか?またf(C)はコリメート撮影時のカメラレンズのf値で、仮に標準レンズを望遠端として使用するとしておよそ55mmと仮定します。
すると、上記の比率は約 0.5 となり、共通のアイピースを使用する限り、コリメート撮影の方が約半分の合成f値を示すことが解ります。言い換えると、コリメート撮影は、「拡大撮影では拡大率が高すぎる」、あるいは「合成f値を拡大撮影の約半分にしたい」と言う場合に意味があることになりそうです。

大雑把にまとめると、下の模式図のようになります。要するに、この方法でなければ、という決定的なメリットは特に大きくないようですが、1)愛用するレンズ交換式ボディで、2)従来の方法では得られない合成f値で撮影したい、という場合には試みる価値はあるかも知れません。私の試算によると、60から80mm程度の交換レンズを使用すると、拡大撮影(最低倍率)と直接撮影とのちょうど中間程度の合成f値が得られる筈です。

EOS
A95

コリメート撮影と言えば、先ずコンパクトデジカメが頭に浮かびます。実際、望遠鏡側に対する機械的負担が少ないので、特にニュートン反射などには絶好の撮影法です。
一方、一眼レフデジカメは一般に高い性能が期待できるため直接焦点撮影だけでなく、屈折やカセグレン系などの場合のコリメート撮影にも応用したくなるのは無理もないことと思われます。

この場合の障害となるのは(1)既製のアダプターがない、(2)果たして意味があるのか?、などの点ではないでしょうか? そこで、(1)は後で考えることとして、(2)について考察して見ました。

[1]写野について

合成焦点距離 (f値) が同じでも、カメラボデイのセンサーの大きさによって写野が変化します。言い換えれば、35mm換算した場合の f 値によって写野が決定されます。例えば、私が所有するボデイで言うと、レンズ自体の f 値と 35mm 換算f値との比率は;Canon EOS Kiss DG=1.6、Canon A95=4.9 と大きく異なります。

一方、望遠鏡自体の焦点距離 (f値) を仮に1と定めて、合成焦点距離の公式を書き改めると;
合成 f 値=レンズの焦点距離×倍率 ですから、望遠鏡の焦点距離を仮に1と考えて、
レンズの焦点距離/アイピースの焦点距離=P を定義すると、Pはどんな焦点距離を持つ望遠鏡にも当てはまる拡大比率となります。

ところで写野は、P× (35mm換算 f 値との比率) で決定されますので、EOSの場合は 1.6×P、A95の場合は 4.9×P がコリメート法における写野を表す数値となり、これを仮に Q と名付けます。

そこで、種々のアイピースを用いた時の Q の値を表およびグラフで示すと以下のようになります。

上の図または表から明らかなように、EOSでは広角側にした際に A95 よりやや低い拡大率までカバーできますが、逆に同等の拡大率を得るためには少なくとも75mm程度の交換レンズが必要となります。これは日常的にデジカメを使用する際の実感と同じもので、わざわざ計算するまでのことはないようです。

要するに、コリメート撮影を行う場合、敢えて一眼レフを使用するメリットは理論上あまり無いということになります。ここで諦めれば良いのですが、矢張りやって見たいと言う気持ちを抑えられないのが困ったことです。

[2]一眼レフのメリット

一眼レフを使用してコリメート撮影を行う際の利点としては(1)2インチを含めて任意のアイピースが使用できる、(2)一般に「けられ」はコンパクトデジカメよりも少ない傾向をもつ、(3)愛着のある交換レンズ群やボデイが駆使できる、などが考えられます。さらに、これはA95 に限った問題かも知れませんが、レンズフードがプラスティック製なので、アイピースとの接続に不安感が残る、という点も挙げられます。

[3]製作

そこで一眼レフ用のアダプター (小型DGにも援用可能) を製作して見ました。

図2
アイピースとカメラとの相対的な位置を決定する因子は右の図で言えば、X,Y,Z の三つです。
私の所有する3台のレンズ交換カメラ(EOS Kiss, E300, RD-1)は、いずれもカメラネジの位置が光軸の真下、すなわち X=0 でしたので、大変好都合でした。
次に Y は 37.5〜40mm(EOS 5D は42.5mm)程度ですので、大き目に設定しておけばカメラの底部に適当なシートを敷いて調節でき、これも問題なしです。
Z はどんな交換レンズを使用するかで決まりますが、一般にはズーミングの際の鏡筒の伸縮につれて変化するので、カメラを乗せた「台座」は「レール」の上をスムースに移動できる必要があります(図3〜5)。

材料としては、軽くてたわみの少ないアルミのL字材やコの字材 (2または3ミリ厚) を多用しました。C8 を乗せる大型アリガタ金具にレール部分をネジ止めし、レールの上で台座を滑らせ、カメラ位置が決まったら、台座固定ネジで台座とレールが滑らないように固定します(図5)。
図6
台座固定ネジ
AstroPhysics 90mm (f:450mm) にコリメート撮影装置を装着。カメラはオリンパスの E300 にOM Zuiko 135mm (F2.8) を組合わせた。
台座
図7
レール
アイピースは何でも良いが、ここでは2インチのTele Vue 16mm Nagler, Type2 を使用。レンズフードの直径がこのアイピースにぴったり。
合成焦点距離

表1: 表中の数値は、対応するアイピースおよびカメラレンズを使用した際の 35mm 換算による合成 f 拡大率 (Q) を示す(本文参照)。

コリメート (A95とEOSの比較)
カメラ    アイピース (mm)
機種 5 10 20 40
EOS 18 mm 5.8 2.9 1.4 0.7
55 mm 17.6 8.8 4.4 2.2
75 mm 24.0 12.0 6.0 3.0
A95 7.8 mm 7.6 3.8 1.9 1.0
23.4 mm 22.9 11.5 5.7 2.9
7.8   23.4  18    55    75
3
6
9
12
図1: 同一のアイピース(10 mm)を用いた際の EOSと A95 の写野の比較 (表1参照)
横軸:カメラ側レンズの焦点距離
図5
図3
カメラ台座
レール
台座固定ネジ
カメラ台座
レール
図4
このようにして、やっと一眼レフが交換レンズを付けたままの状態で、C8+アイピースに無事接続できました。この装置の特徴は以下の通りです;

1)カメラはEOS Kiss DG の他、E300が取り付け可能。他の一眼レフも、X=0であればOKの筈です。
2)交換レンズは、標準レンズの他、手持ちの OM Zuiko (28mm F3,5、55mm F1.2、135mm F2.8、75-150mm zoom F3.5) などがすべて適合します。
3)アイピースの種類・形状は自由に選べます。

なお、これはおまけですが、レンジファインダーDGカメラの RD-1(エプソン) を装着できますので(図5)、ライカレンズで天体撮影も可能です。
Jupiter

この装置を使っての始めての天体写真です。

C8EX+LV25 mm; EOS Kiss DG標準レンズ EW-60C (f 55mmとして使用)。合成 f = 4470mm, 合成 F=22.4;
2005, 04, 22; 21.43. 12: Ohmiya - ISO 100, 1/2 sec, F5.6


まあ、写真の出来映えは良くありませんが、装置としては使えそうなので、今度は90mm 屈折のAstroPhysics 用にも1台作製して見ました(図6および7)。

デジタル一眼レフでコリメート
サイトトップへ