変化率(%)
200
50 55 63
斜鏡短径(mm)
変な反射望遠鏡の設計と製作
−冷却CCD撮影用15センチ反射鏡−
なにか軽くて良く写る望遠鏡が作りたくなりました。コストから言うと反射ということになりますが、苦労のタネは意外にも鏡筒バンドです。口径15cmの主鏡にそのまま適応するボイド管というと内径17.5cmでしょうが、これにそのまま使える鏡筒バンドは見つかりません。
やむを得ず鏡筒バンドから自作するハメになりましたが、これでも4〜5分程度のノータッチガイドには充分な強度がえられます(重い冷却CCDが安心して使えることを前提としています)。なにしろ市街地では観望もままならず、一眼レフも光害には弱いので頼りになるのは重くても冷却CCDということになって仕舞います。
1] 鏡筒バンド
大雑把に言うと、200mmφのボイド管を巾4cmほどに輪切りにしたものを4個作り、2個づつを張り合わせて一組にします(合計2組); 次いで、鏡筒(175mmφのボイド管)の外径に合わせて切断、それを更に二等分してその両端に蝶番とアルミL字板を挟み込みました。二重になったボイド管の断面は鉄鑢で平らにし更にパテを塗りこんでペーパー鑢で仕上げます。
次に、木板に厚さ5mmのアルミL板2枚を固定し、バンドの下中央を木板にネジ止めすると、かなり丈夫なバンドが出来上がります(テストでは焦点距離800mm程度の反射鏡なら3〜4分程度のノータッチ撮影にはなんら差し支えがない程度の強度が得られました)。
2] 主鏡台座
下図は、鏡筒バンドの外側を黒く塗り、CCD脱落防止装置(上図)にCCD(フラットナー装着)を取り付けた(下図)状態です。
脱落防止装置はピント調節の際にCCDカメラが左右に軽くスライド(白い矢印)できるようになっています。またフラットナーを外すなど接眼部を交換した場合のために粗動(赤い矢印)もできるようにしてあります。
3] 斜鏡の選定
斜鏡の選定は苦労です。大きすぎる斜鏡は「百害あって一利なし」と言われますが、本当にそうか?と思っています。要するに「観望目的か、撮影目的か」が分かれ目でしょう。一般に反射望遠鏡の斜鏡短径を求める式としては;
M=L/(f/(D−d))+d 1)
(M:斜鏡短径、L:筒外光路長、f:焦点距離、D:口径、d:イメージサークル)
が良く使われますが、このd(イメージサークル)が問題かな?と愚考しています。要は観望目的としてのdに比較して撮影用のdは大きくなるようです。当然この場合には中央遮蔽が大きくなり、有効口径は小さくなりますが・・・。因みに、カサイ扱いのGinji(口径200mm)を例にとると、N型(観望用?)よりFN型(撮影用?)
の遮蔽率が大きいようです。
200mm反射望遠鏡 |
F値 |
用途? |
斜鏡短径 |
面積遮蔽率 |
直径遮蔽率 |
Ginji-200N |
6 |
観望・撮影 |
52mm |
6.8% |
26% |
Ginji-200FN |
4 |
撮影 |
72mm |
13% |
36% |
また、別のメーカーの説明としては、「直径遮蔽率は撮影を目的とした場合は40%程度が最適」との記載も見られます(田中光学)。要するに遮蔽率が大きくなっても「イメージサークル」をある程度大きくすることは画像周辺の光量を豊富にするための必要悪かも知れません。
では主鏡のスペック(口径と焦点距離)が決まった場合、どの程度の大きさの斜鏡を採用すると、どの程度のイメージサークルと遮蔽率などが得られるのかを予め知っておく方が良いでしょう。
先の式1)を変形すると、
d(イメージサークル) =(M×f−L×D)/(f−L)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2)
またその際の直径遮蔽率(A)、面積遮蔽率(B)および有効口径(C)は、それぞれ
A=100×M/D・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3)
B=100×M2/D2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4)
C=(M2−D2)1/2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5)
となります。
この1)から5)までの数式をエクセルに入力して、口径150mm、f=750mm、筒外光路長180mmの場合の斜鏡短径とイメージサークル(mmφ)の関係を算出しました(下表のイメージサークルの値はコマコレクターを使用しない場合の数値です)。
既定値
|
選択値
|
性能 (算出値)
|
筒外光路
|
焦点距離
|
口径
|
斜鏡短径
|
イメージ
サークル
|
直径
遮蔽率
|
面積
遮蔽率
|
有効口径
|
有効面積率
|
L
|
f
|
D
|
M
|
d
|
A
|
B
|
C
|
D
|
180
|
750
|
150
|
50
|
18.4
|
33.3
|
11.1
|
141
|
88.9
|
180
|
750
|
150
|
55
|
25.0
|
36.7
|
13.4
|
140
|
86.6
|
180
|
750
|
150
|
63
|
35.5
|
42.0
|
17.6
|
136
|
82.4
|
上の表では、斜鏡短径を50、55および63mmとした場合のイメージサークルその他の数値の変化を示しました。
ご覧のように、斜鏡短径を63mmとするとイメージサークルが大幅に改善しますが、面積遮蔽率をはじめとするマイナス要因の変化はそれ程大きくないように思われます。
これを図示すると右図のようになります。これはある程度の範囲では、斜鏡短径を大きくすることにより望遠鏡の集光能力(有効面積率)を大きく損なわずにイメージサークルを大幅に改善できることを示すように愚考されます。
以上の考えに基づくと、55mmと63mmの中間程度の斜鏡が望ましいと思われましたが、生憎入手不能でしたので、ちょっと大きめかな?と思われますが63mmφを選ぶことにしました。
4] 斜鏡のオフセット
斜鏡のオフセット量は、√2 ×斜鏡短径÷4÷F値 となりますので、短径が大きいほど、またF値が小さいほど(明るいほど)無視できない大きさになります。上記の設定ではこのオフセット量は約4.5ミリと算出されます。
既成のホルダーを加工するのは困難と思われましたので、φ5cmの木柱を45度の角度で切断し(DIYでは50円で切断してくれました)、他端の断面中心部に鬼目ナットを植え込みました(下左図参照)。斜鏡は両面テープで張り合わせましたが万一を考えて3点で支持(薄い銅版を加工)しました(下右図参照)。
5] 主鏡ハウスの製作
主鏡の位置は、焦点距離と筒外光路長から決められるとは言うものの、やはり実際にカメラを取り付けてピントが出ることを確認するまでは不安が残ります。 そこで、主鏡を固定した「主鏡ハウス」を予め製作して主鏡筒に挿入し、前後に微動させて確実な主鏡の位置を確認してからそれを主鏡筒に固定するという方法をとりました。 鏡筒ハウスには予め3個の鬼目ナットを植え込んであります。
6] 鏡筒の製作
鏡筒には内径175mmの白ボイド管(米谷紙管)を使用しました。内面は黒ボール紙の管の内側に植毛紙を張り合わせたものを挿入し、完全な遮光を施しました。また鏡筒の先端部付近に内径15cmの遮光環を嵌め込んでいます。
9
17.5
30
35
65
ヘリコイド
15
76.5
イメージサークル
遮蔽環
焦点位置
なお、鏡筒の素材(ボイド管)は紙ですので、夜露が気がかりになります; そこで表面に透明のニスを塗りましたが、ボイド管特有の筋目がかえって目立つようになりました。
しかし、これで表面に光沢も出て、しかも夜露程度なら防水の役にも立つように思われます。
なお、ファインダーはスコープタウン製50mmF6レンズと直角ミラーを組み合わせた自作品です。アイピースは自由に交換できます。
7] 冷却CCD装着時のバランス
冷却CCD(ST2K XM)の重量は900 g で、これにオートターレットを加えると約1.4
kg となり、かなり重いです。 おまけにフラットナーを介するとなると全体の重心はかなり鏡筒本体から離れることになります(実測で鏡筒真下から5cm
ほどです;下図参照)。
撮影器具を一眼レフに交換すると全体の重心位置(縦方向と横方向の両者)がまた変わってきます。つまり、赤道儀の負担を軽くし、更に取り回しを良く(フリーストップに近い状態に)するためには鏡筒の縦方向だけでなく、横方向のバランスもとれる方が何かと好都合に思われました。
そこで縦横のバランスが自由に調節できるように、二組のアリガタ・アリミゾを装着しました。心配した強度の点でもこの程度の重量の望遠鏡ならほとんど問題ないと思っています。
註1: この方法はガイド鏡を同架するための撮影システムと類似と思われます。
註2: 全体の重量が例えば 8 Kg を超えるようなシステムでは赤道儀の回転に伴う 「きしみ」 に耐えられないかな?と考えられます。
ただいま進行中です
2014, March, 03
9] 諸元
重量 (ファインダー、フラットナー、鏡筒バンドなどを含む): 約 5.0 kg
主鏡 (口径とF値):φ150 mm、F5 (焦点距離=750 mm)
斜鏡 (短径、オフセット値、イメージサークル) : 63 mm,4.5 mm,35.5
mm
註: カサイ製コマコレクター使用時では、焦点距離は約 757 mm、イメージサークル
(計算値) は約 35.9 mm
10] 撮影の実際
(まだ撮影の機会に恵まれていません)
8] 補足
望遠鏡の本体を外すと下の写真のようになります。
右側に見えるトンボの丸い頭部が望遠鏡台座と干渉しないようにアリガタと本体底部の間に厚さ5mm程度のアルミ板を敷いてトンボが自由に回転できるようにする必要があります。
100
-60