Z光軸型屈折望遠鏡 (Mirrored Refractor) の製作
1)目的
ごく一般的に言って,望遠鏡の見え味を決定するのは,@ 口径が大きいこと,および A 焦点距離が長いことではないでしょうか? ただこの条件を屈折望遠鏡で満たそうとすると,重さは我慢するとしても,少なくともかなり長大なものとなって仕舞います。
大口径ではありませんが,たまたまツアイスのφ63mm,f:840mmというレンズ(アクロマート)を所有しており(下左),見え味は抜群なのですが,口径の割に余りにも長い鏡筒となり,ベランダで振り回すにはやや抵抗があります。Reducerを使えば短くなりますが,やはり長焦点らしい見え味がやや鈍くなるように思えて気が向きません。そこで,ただただ「鏡筒を短くする」ことだけを目的として,鏡を2枚使ったヘンな望遠鏡を作って見ましたのでご報告します(下中央)。
注]この形式としては,かつて天文ガイドにも掲載された山口氏の作品がよく知られています。
今回の例はこれと同じ原理ですが,対物鏡と接眼側の光軸が平行という特徴があるように思われます。
完成後に知ったことですが,これと同様の構造をもつ屈折望遠鏡が日本精光研究所(ユニトロン)という所から「Z 3」という名称で1979年に米国で発売されたものの,余り売れなかったようです(上右)。たぶん大きい物好きのアメリカ人の好みには合わなかったのでしょう。しかし,少なくとも長大な鏡筒が風圧の影響を受けて視界がゆらゆらという欠点は防げる筈です。またベランダなど狭い場所での取り回しの良さも無視し難いように思われます。
2) 設計(その一)
図のように「第I鏡筒」の斜鏡Pと「第II鏡筒」の斜鏡Qの水平方向距離をm,垂直距離をnとし,斜鏡の傾きをθとすると,両光軸が平行となるためには,tan2θ=n/mです。倍角の公式を用いて計算すると,tanθ={(m2+n2)1/2−m}/n となります。
例えば,m=200mm,n=80mmとすると,tanθ=0.193と算出されます。要するにmとnを決めれば傾きの角度が決まり,対物レンズや接眼部の位置とは一応無関係となります(勿論,装置の寸法の許容範囲内ですが)。通常の屈折式と比較し鏡筒が短縮される長さは,(m2+n2)1/2+mですから,上記の場合は約415mm短縮されます(通常の屈折のほぼ半分以下となります)。
実験
はたして設計通りになるかどうかを先ず試験して見ました;
この段階では斜鏡を使うのはまだ勿体ないので,有り合わせの小型の平面鏡を2枚使って,写真(左)のような装置を作ってみると,意外(?)なことに設計図通りうまく見えました(感動!?)。
そこで思い切って本気(?)で装置の具体的な設計を行いました。
3)設計(その二)
以下の設計図(というより概念図)は,始めに作ったものに製作の途中で手直しを加え,その都度修正を加えたもので,ほぼ出来上がりの状態です(ただし,側面図と上面図がごちゃ混ぜの部分があります)。留意点としては以下が挙げられます;
@ 二つの鏡筒間に光線が横切る窓を繰りぬく,A2本の鏡筒間をネジで固定し,また鏡筒と台座を接続するために鏡筒部分に鬼目ナットを植え込む,B接眼部分のバッフルをできるだけ長くする,C対物レンズおよび2個の斜鏡は,鏡筒側から押しネジで固定するが,分解が必要となる場合に備えて着脱可能とする。
1)製作
A]斜鏡
ニュートン反射用の斜鏡を使用しました;先ずtanθ=0.193となる支持部分の製作には,四角の木柱を自作の材料支持台(下左)に斜めに正確な角度で固定し,電気鋸で一気に切断し所定の長さとしました(A)。次いで円柱の木材に鬼目ナットを4個植え込み(押し引きネジ用)更に(A)が回転しないように「斜鏡回転防止」用の金具を固定しました(B)(下中央)。
完成した斜鏡部分がしっかり鏡筒に挿入できるようにボール紙を巻き遮光塗料を塗れば完成です(下右)。(余談:組み立て時に,第一斜鏡のエッジ部分が鏡筒内径より少し出っ張ることが判り,2mmほど鉄やすりで斜鏡のエッジを削りました;勇気が必要かも? それにしても斜鏡ガラスは硬いものでした!)なお,斜鏡支持部分の切断角度は,どっちみち最後に光軸調整を行うので,それほど正確である必要はないようです。
B]鏡筒
φ75mmのボイド管です;詳細は省略します;写真(左)は一方の鏡筒に光沢紙(A3版)を巻きつけた段階です;これは糊付けでなく,見えない部分にセロテープを巻いて固定するだけで充分でした。というより,後日表面が汚れたり色を変えてみたい場合に障子の張替えのように容易に外表のみの交換が可能というメリットが考えられます。
C]ファインダーおよび架台(中央)
鏡筒を固定する台座(アリガタ付き)にファインダーも固定し,また両鏡筒間のくり貫き孔からの光を遮る目的で,厚さ5mmのボール紙から切り出した円形部分(右)を貼り付け内面を遮光塗料で塗装しました(この隙間の部分は実際にはそれほど神経質になる必要はなさそうです。)
D]接眼部
鏡筒の構造上やむを得ない迷光を避けるために,遮蔽環を内臓した長めのバッフルを付けました(左)。
6)光軸調整 その1:
すべてのネジ(5本)の締め付けが完了し,両鏡筒が台座上でびくともしないことを確認(右)してから,光軸調整を行いました;先ず,
@「第一鏡筒」に対物レンズのみを装着し,第一鏡筒の後方から視野中心を確認し,
A ファインダーを正確にこれに合わせます。B 次いで,第一鏡筒後部に第一ミラーを付けて第二鏡筒の前方斜めから眺めてほぼ同一視野が得られるように第一ミラーの傾きを調整;
C 最後に第二ミラーと接眼レンズを装着して,実際の視野がファインダーの視野と正確に一致するまで第一ミラー(または第二ミラー)を調製します。
この方法が正しいかどうかは不明ですが,少なくとも眼視に関する限り光軸はほぼ一致と見なせるのではないかと思われます。
光軸調整 その2:
上記の操作の完了後に,対物レンズの外側に同心円上に配列した四個の孔をもつ黒いボール紙を被せ,光軸調整アイピースを接眼部に挿入してこれを覗き,視野に四個の明かりが正しく同心円を描くまで斜鏡の光軸調整を行ったところ,更に像がよくなり,写真撮影にも自信(?)が持てるようになりました。長焦点なので,導入にはやや苦労しますが,さすがツアイス(?)だけあって,アクロマートとは言え,かなりシャープな星像が得られました。
(A) まずフルサイズの長い通常型鏡筒を同架(上左)して,同じ条件で夜景を比較しましたが,ほぼ遜色ない見え味でした。勿論,通常型より勝るということはなさそうですが。
その夜,久しぶりに晴れたので(2009, Mar, 10; 21時頃),月(ほぼ満月)と土星を眺めました。特に土星は輪が一直線に見え,にじみも感じられません(Radian;
18mm;約50倍)。恒星もほぼ点状に見え,尾を引くような様子は全くなく一安心しました。要するに,鏡を用いたことによる悪い影響は(理論上は別として)実用上ないと断言できそうです。
したがって,スタイルは別として性能にはほとんど差の無い本機の方が,取り回し良さの点を含めて遥かに気に入っています。
B) 取り回しを良くするには,Reducerを用いるのも一つの方法かも知れません。そこで実際に比較することを目的として,余っていた同じボイド管を使って作製して見ました。Reducreとしては,セレストロンの1/ 6.3は試作段階で何故か相性が悪い(見え方が不満)ように思われたので,敢えてボーグの45ED (f=325mm) をReducreとして選択しました(上中央および右)。
Reducre(Borg 45ED)と焦点までの距離 (d) を約310 mmとしたので,合成焦点距離 (f) は;
1/ f = 1/ f1+1/ f2 - ( f1−d) / (f1*f2) より
f= 約430 mm(F=7)と計算されました。
この3本の鏡筒を比較してみますと,独断と偏見かも知れませんが,次表のようになりました;ただし,Reducerを付けて焦点距離を変えると当然全く別の望遠鏡となって仕舞うので比較の意味は余りありません。ここでは,ただただ直感的に比較を試みた次第です。
|
評価配分
|
双筒型 (本機)
|
通常型
|
Reducer型
|
見え味
|
70
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69/70
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70/70
|
50/70
|
取り回し
|
25
|
25/25
|
5/25
|
25/25
|
スタイル
|
5
|
3/5
|
5/5
|
4/5
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Total
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(100)
|
(97)
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(80)
|
(79)
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順位
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−
|
1
|
2
|
3
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焦点距離 (mm)
|
−
|
840
(F:14)
|
840
(F:14)
|
約430 (F:7)
|
鏡筒長 (mm)
|
−
|
約390
|
約800
|
約400
|
8)天体の撮影
天体撮影の場合,小口径/長焦点のためにカメラ視野が暗く,カメラ側で構図を決定するのは困難なので,フリップミラー付きに改装しました。視野は約1.8×2.7度(EOS Kiss X2)ほどですから,M 42 などでも充分です。
7)通常の屈折望遠鏡との比較
対物レンズはレンズハウスごと着脱式としましたので,同一レンズを装着した通常型の自作望遠鏡(左)およびReducer(中)を用いて自作した短鏡筒(右;いずれも本機と同じφ75mmボイド管を使用)と比較して見ました。
下の写真は左から,@ トリミングなし,A トリミング,B トラペジウム部分の超拡大画像です。小口径であることと非改造一眼レフであるため,画像は全く面白みがありません。ただ,心配していた色滲みがそれほど激しくないことと,中心部のトラペジウムがどうやら分解できることが判りました。
ちなみに,撮影データは以下の通りです;
2010年1月15日,21時頃,Canon EOS Kiss X2(非改造), ISO 1600, 1回露出30秒,18枚(9分間)コンポジット,Vixen GPD赤道儀,Pyxisによるノータッチガイド
恒星の写り方を少し検討してみました。下左は散開星団のM35,右は2.2等から8.6等星までが写っている例です。
EOS Kiss X2 (非改造) 30sec X 12; ISO 1600
M 35
勿論この望遠鏡は天体撮影向きではありません;小口径(Φ60mm)でしかもアクロマートですから。しかし観望目的なら結構シャープな見え味となり,その際でも
「撮影ができない訳ではない」 と思いながら星を眺めるのは結構気持ちが良いものです。
これに気をよく(?)していたところ,口径80mmでF15(f=1,200mm)というアクロマートレンズを手に入れたので,これも双胴化して見ました。出来上がりの写真を添付させて頂きます。
スコープタウン社製 Φ80mm,F15(FL=1,200mm)アクロマート
このレンズは比較的切れ味の良い優れたレンズと思われます;しかし上左写真手前のように滅茶苦茶に長い鏡筒になり,お世辞にも使いよいとは言えません。そこで上記とほぼ同じ手法で短鏡筒化を図りました。Φ 80mmだけあって鏡筒の対物側が太くなって仕舞いました。
途中の製作過程については説明抜きですが,下の写真をご覧戴きたいと存じます。
以上